— — 私のひとり言 — —     本田山郁子
   

みなさん「タテ社会の人間関係」(講談社現代新書)という本をご存知でしょうか?刊行から50年、読まれ続けている中根千枝先生のベストセラーです。以前、この中根先生が新聞のインタビュー記事で印象的なお話をされていました。

「インド奥地で調査をしたとき、ゾウに襲われて妻が亡くなる事件に出会いました。その夜、村人たちは悲しみの場ですぐ、次の妻を誰にするかの相談を始めた。夫婦が協力して働かないと生活ができないからです。」

私はこの記事を読み「協力して働かないと生活ができない」という理屈抜きの現実が目の前にある彼らの暮らしには、現代日本人が持たなくなった「生きることは食べ物を自ら生み出すことである」という人としての確固とした存在価値があると感じました。

生活が消費中心となった現代社会では、「生きる」「食べる」ことと「食べものを生み出す」ことがかけ離れ、海山の生き物を獲り田畑の作物を育てる(生み出す)という自然との関わりを感じられません。そのため、「自ら生み出したものを食べて生きる」という自然の営みから離れた私たち現代人は自分の存在価値を見失いやすくなりました。定年後に限らず都会の仕事を捨てて地方に移住し「食べものを生み出す仕事」をして暮らす人が増えたのは、「食べ物を生み出す仕事」が現代人の失いがちな人としての存在価値を取り戻す力を持っているからではないでしょうか。

ところで中根先生は著書の中で、日本社会の特徴をとても分かりやすく書かれています。著書のテーマは「人間の存在価値」とは少し違いますが、人間関係のストレスに興味のある方は著書を手に取ってみてください。職場のストレスの理由が見つかるかもしれません。